「向上心」考(生きて戸惑い動揺する教養) 

[2006/05/31] | 新訳Ζ | トラックバック(0) | コメント(0) | TOP ▲

 「教養」という、似合わないことをこの間しばらく考えてきました。教科書は、高田里惠子『グロテスクな教養』(ちくま新書)。もともとは、「Ζガンダムはビルドゥングスロマン(教養物語、成長物語)としてどうなの」という話から、思えば二ヶ月以上以上もかかってここまで来たんですが。(笑)
 第1章の標題は「男の子、いかに生くべきか」でした。
 自分自身を作り上げるのは、ほかならぬ自分自身だ。・・・正直「なるほど」が半分で、「へぇ、教養って本当はそういう意味なんだ」が半分だったわけですが。第4章まできて、その残り半分の正体に気づかされました。最終章は、女性にとっての教養の話(ちなみに著者も女性)なのですが、これがまぁ、格別に「いやったらしい」話柄。(笑)
 第1章で語った教養の定義は「男子たるもの」の生き方の話だったところがミソでありまして、これに対し、久しく女性にとっての「教養」という言葉は、「お育ちの良さを表す目印」だったという、なかなか今どき口にするのがはばかられるような歴史的経緯が記されております。私みたいに学のない人間は、実は「教養」と言われると、こっちのイメージのほうがパッと浮かんでしまうという・・・。

 アイデアは熱いうちに打たないとしぼんでしまうと言いますか、『Ζガンダム』の男性原理VS女性原理の話を、この話の延長で読んでいくとどうなるんだろうか、ってのが私の関心だったのですが、ちょっとネタを寝かしすぎちゃって、うまく言葉にならないんですけど。

 自己形成を目指したいというメンタリティの根本にあるのは、「心貧しく何かを求め続ける」気持ち、すなわち、今ある自分に満足できない焦燥感なのですね。(これは格別、男性だけの特権ではないのは言うまでもない。)
 ただ、それは貧しさに立脚しているという事実も直視しなければならない。つまり教養主義というのは、ブルジョア的視点からは「身の程知らずの上昇志向の落ち着きのなさ」だし、一方、庶民的存在には、「自分たちを置き去りにする裏切り者のエゴイズム」なのだという。
 いわば、「教養」を求める向上心というのは、「成り上がり根性」と背中合わせだという指摘なのですが、それはそのまま「近代日本そのものの姿」(その根性の消滅が日いずる国の没落) でもあったと。

 世の中全体が右肩上がりのときは、それでもよかったのですよ、たぶん。しかし、今はそうではない。
 そこで自身も女性である著者は、今日の教養(いかに生くべきか)を考えるべき最前線に立っているのは女性であるという指摘で筆をおいています。(・・・んん?結論は? 笑)

もし、教養や教養主義にたいする筆者の態度がいま一つ明確でない、批判なのか擁護なのかよく分からない、と感じられるとしたら、それは、人間をその複雑さのままに示してみたいという本書の願いから来ている。教養は、もちろん、この人間の複雑さと切り離しては考えられない。


 これはあとがきの中にある言葉です。私はこの態度は富野アニメの人間観ととても近いものだと感じました。(女の時代が来る、というシロッコの説を別にしても。 笑)
 筆者は続けて、おそらくこうした態度の例として、大西巨人『神聖喜劇』の主人公が「いろいろたくさん私にわからぬことがある」と正直に混乱を告白することについて記しています。

 人間描写の細部のリアリティは、われわれが日々体験する、厳粛と言っていいのか滑稽と言っていいのか、笑っていいのか泣くべきなのか分からない、まさにグロテスクな状況を映しだす。
 そして、そのように細部が積み重ねられるほど、人間をよく掴めなくなるのだ。これは、主人公じたいの感覚である。


 この部分は、私たちにはまるで、『Ζガンダム』の批評のようには聞こえませんか?(笑)
 「確固とした理念としてではなく、生きて戸惑い動揺している教養」という言葉に、私はとても感動をしました。

 「自分自身をどう見るか」が男性原理の教養だったとすれば、「他者にどう見られたいか」「他者をどう見るか」はやや女性原理的(と思われてきた)な教養論になりがちなわけですが、社会全体が頭打ちな現況の中で、人を差し置いても自分(だけ)は向上したい、という願いはしばしば壁に突き当たります。(下手をすれば、あの宗教の人々のようにさえもなりかねない。)
 ・・・私の下手な言葉でまとめてしまうのは、どうなのかなとも思いますが、それはつまり、人と人との関係の中で、戸惑いながら、動揺しながら、しかし互いの向上を飽かずたゆまず希求し続けるというようなことなのかな、というような感想を私は持ちました。
 つまり『新訳Ζ』というのは、そういう今日的なビルドゥングのあり方のひとつの真摯な模索だったのではないのか、と。(そして、それは断じて微温的な「現状肯定」ではない!)
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