タレント化するクリエイター 

[2006/05/15] | 御大 | トラックバック(0) | コメント(0) | TOP ▲

 にわか勉強、高田里惠子『グロテスクな教養』(ちくま新書)で『Ζガンダム』を考えようシリーズ(ぉぃ)を続けていきます。
 第1章は「いかに生きるべきか」を自分なりに考えるのが「教養」ということ、それは教養崩壊といわれる今日では、エリートだけではなく誰もが考えるべき問題になっているということで、『Ζガンダム』の物語はそうしたテーマを検討するにふさわしい構図を備えているらしいと読みました。
 第2章では、戦争という極限の状況に迫られた時、「いかに生きるべきか」の問題は「いかに死すべきか」と背中合わせに浮かび上がってくるということ、死ぬか生きるかの戦いの中でやたらと内省を繰り返す『Ζガンダム』をはじめとした富野アニメのキャラクターたちは、そうした意味でそこに描かれているのではないかということを読みました。
 『Ζガンダム』との絡みで読みたい本命は、実は第4章なのですが、その前に第3章にも目を通しておきたいと思います。

 第3章の標題は「出版社、この教養の敵」というものです。なぜ出版社が教養の敵と言われねばならないのか?
 難しい問題が書かれているのですが、雑駁な解釈を書いておくと「いかに生きるべきか」を考えるための手がかりとなる「教養書」は大事なものですが、その著者がそれによって富ないし名声を手にすることは、実学的なものとは相容れない「教養」本来のものとは矛盾するものだということのようですね。

読まれる人の、出版を通した活躍なくして教養主義はありえなかったが、一方で教養主義は、読むことに徹する受動的な人の存在と結びついている


 「いかに生きるべきか」を深く思索するような人は本来、「ばかばかしい公衆を相手にして少しぐらい手ごたえがあったからといってそれが何だ」と考えて、市場に晒されることへの羞恥心を持つものなのではないのか、という問いがここにあります。
 ただ、「いかに生きるべきか」を思索する教養などというものは、この国では近代国家の成立時に実用性を認められず、制度の外に放置された知識(「制度化された知識の余白」)です。そこでアカデミズムはジャーナリズムと手を組むことになる。「知識の商品化、市場化」は、制度から締め出された教養を大衆社会が救うことでもありました。(無名の学者・夏目金之助が人気作家・夏目漱石になるという例が挙げられています。)
 しかし大衆化とは、ともすれば「虚名」を求めることにも繋がります。大衆は、「いかに生きるべきか」という人格修養のためにではなく、「文化的な威信にたいするミーハー的憧憬」(つまり、かたちを変えた立身出世主義) で作品や作者に接するようになってしまう。
 
 ・・・これを読んでいて、私は最近の富野さんの異様なまでのメディアへの露出というようなことを考えていたのですが、答えは簡単ではないですね。
 学者のタレント化の極限例として浅田彰ら「ニューアカ」と言われた人たちの話が出てきます。この人たち自身は教養の大衆化というものの矛盾は分かっていたということなんでしょう。

しかしニューアカに憧れた若者たちは、最初から何の屈託もなく、自分が商品になること、自分の名前が表紙にぱーっとあることを望んだのだった。


 富野さんはアニメのクリエーターとして最初期の脚光を浴びた人のひとりと言っていいかと思います。彼が「虚名」のタレント化ということについて複雑な思いを抱いていることは、なんとなくうかがえます。
 このことへの解釈は保留としまして、「ニューアカ」現象の顛末の話にはなかなか興味深いものがあります。

「おそらく浅田氏としては、知をこういう風に消費することで、こういう消費自体がばからしくなって、こうしたやり方をアイロニカルなやり方で終わらせる、というのが本来のねらいだったということになるのかもしれません。しかし、結果的にはかえってこういう思想や知の消費のやり方を積極的に模倣する人々をたくさん生み出してしまったんです。」


 「浅田氏」という部分を、例えば「庵野氏」と読み替えてみたくなりませんか?(笑)
 あるいは、タレントは作られるものだという意識の芽生えから「編集者が非常に元気になって、状況を操作しうるかのような権力意識を持ったと思うんです」というような話も、いわゆる「大月アニメ」というものであったりとか、ジブリで言ったら鈴木敏夫の存在であったりとか、アニメの状況に翻案して読めるテーマがいろいろあります。
 これら皆、興味深い視点だと思うんですが、何しろ私の能力不足もありまして、ただ面白そうだよね、と指摘するだけの情けない話です。
 いちおう、『Ζガンダム』との関係で読めそうなメインターゲットは、次の第4章のつもりなので、今夜のところはここまでで筆を置きます。

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